ドクターコラムDoctor Column

生で食べることの危険

5月から9月にかけては細菌による食中毒が発生しやすくなります。原因となる細菌の中でも、発生件数の多い「カンピロバクター」と、重症化例や死亡事例が発生することのある「腸管出血性大腸菌(O-157、O-111など)」には特に注意が必要です。
 小児や高齢者は抵抗力が弱く重症化しやすくなります。昨年4月に富山県や福井県の焼き肉チェーン店で発生した腸管出血性大腸菌による集団食中毒では、症状を訴えた181人のうち34人が溶血性尿毒症症候群を、21人が脳炎を発症し、そのうち5人が死亡しました。非常にセンセーショナルな事件として記憶に残っているかと思います。

 この2種類の細菌は家畜の腸管内にいる細菌で、少量でも感染します。鶏肉の刺身や牛のレバー刺し・ユッケなどのような生肉、加熱が不十分な肉料理、手指やまな板を通して細菌が付着した食品を食べたり、汚染された飲料水を飲んだりして発生しています。
 特に牛のレバーは内部からも腸管出血性大腸菌が検出されたことにより、現在のところ安全に生で食べる方法がありません。そのため今年7月から牛のレバーを生食用として販売・提供することが禁止となりました。”自己責任で食べる分にはいいのでは”と言う人もいますが、自身が感染源(保菌者)となって周囲の人に移す可能性もありますので絶対に生では食べないで下さい。
 ほかに「サルモネラ」は鶏卵や鶏肉、「黄色ブドウ球菌」はおにぎりなどの手作り食品、「腸炎ビブリオ」は魚介類が原因食品です。

 食中毒予防のポイントを列記します。

  1. 食品を買う時は賞味期限を確認し、新鮮な食材を選ぶ。
  2. 保存では冷蔵庫は10度以下、冷凍庫はマイナス15度以下。7割を目安に詰め込まず、生物の汁が他につかないようにビニール袋が容器に分ける。
  3. 調理前や生物を触ったらその都度手を洗う。包丁、まな板は洗浄し熱湯消毒や日光消毒をする。
  4. 調理で加熱する食品は十分に加熱する。中心部分が75度で1分以上加熱する。
  5. 食事前の手洗いを徹底する。
  6. 残った食べ物を長時間放置せず冷蔵庫で保存する。少しでも臭うなど怪しいと思ったら、迷わず捨てる。

 魚介類を生で食べる習慣のあるわが国では「アニサキス」という寄生虫による食中毒にも注意が必要です。体長2cm ほどのアニサキスが寄生したサケ、サバ、アジ、イカ、タラなどの魚介類を食べると、胃壁やまれに腸壁に刺入し激烈な痛みを引き起こします。胃壁に刺入した胃アニサキス症では、内視鏡的に取り除くとすみやかに症状が消失することが多いのですが、腸壁に刺入した腸アニサキス症になると腸閉塞や腹膜炎を起こし開腹手術になることもあります。
 アニサキスは熱処理(60度 1分以上)のみならず、冷凍処理(24時間以上)で不活性化しますので、冷凍処理後に解凍して調理されたものであれば問題ありません。新鮮な魚介類をそのまま生で食べる場合には十分注意してください。以前、自分で釣ったサケのマリネを食べて激烈な胃痛を起こした患者さんの内視鏡検査で、4匹もの(通常1~2匹)アニサキスが胃壁に刺さりのた打ち回っているのを見てからは冷凍処理していないサケを生で食べる気がしません。

消化器内科・副院長:能戸 久哉

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