大動脈瘤と急性大動脈解離
1. 大動脈瘤
大動脈は横隔膜をはさんで大きく胸部大動脈と腹部大動脈に分かれます。胸部や腹部の大動脈が「瘤(こぶ)」のように拡張した状態が動脈瘤で、動脈壁の全周または局所が正常径(胸部30cm、腹部20cm)の1.5倍を超えて拡張した状態で動脈瘤と診断されます。(胸部であれば45~50mm以上、腹部であれば35~40mm以上)
動脈瘤の原因は動脈硬化性、炎症性、感染性、外傷性、先天性などありますが、最も多い原因は動脈硬化によるものです。発生部位では胸部より腹部の大動脈瘤が多く、近年、高齢化により患者数も増加傾向にあります。
動脈瘤は、一旦破裂すると8割以上が救命できず、致死率の高い病気です。
動脈瘤径の拡大を抑えるためには動脈硬化を抑えることが重要で、具体的には禁煙を継続し、高血圧,糖尿病、脂質異常症の管理を徹底することです。
大動脈瘤が手術適応となるのは、男性で直径55mm、女性で50mm以上が一応の目安ですが、発生部位、瘤の形、拡大のスピードなどを総合的に判断し手術が検討されます。手術は部位や病状を考慮し、人工血管置換術あるいはステントグラフト内挿術が行われます。
2. 急性大動脈解離
動脈の壁は内膜、中膜、外膜の3重の層でできています。
動脈解離とは、内膜に亀裂ができ、中膜層で血管壁が裂けていく病気です。
ほとんどの大動脈解離は、動脈硬化によって劣化した動脈壁が高血圧の持続で裂けてしまうのが原因です。
動脈解離が発生すると、痛みが出現します。その多くは突然の耐えがたい激痛で、引き裂かれるような痛みとよく表現されます。最も多いのは胸の痛みですが、背中の肩甲骨の間に痛みが出ることもよくあります。解離が大動脈に沿って進むと痛みも移動していきます。
解離が発生して本来在るべきではない空間(偽腔:外膜と内膜ではさまれている空間)が大きくなると、大動脈から分岐する動脈を圧迫し、臓器の血流障害(脳、腸管、腎、上肢・下肢、脊髄などの血流障害)が発生します。
心臓から出る上行大動脈で解離が発生した場合、心臓を包む心膜内に血液が貯留し、貯留した血液が心臓を圧迫して血圧が低下したり(心タンポナーデ)、心臓の出口にある大動脈弁に解離が進むと弁が破壊され、急性大動脈弁閉鎖不全から急性心不全に陥ることがあります。心タンポナーデや急性大動脈弁閉鎖不全が発生した場合は手術をしなければ非常に高い確率で急性期に死亡します。
治療としては、鎮痛剤で痛みをやわらげ、収縮期血圧を100~120mmHg以下に保つように薬物療法が行なわれ、その後必要であれば解離している血管を人工血管に置き換える手術が行われます。ほとんどが緊急で、血管の壁も弱くなっており、手術の危険性も高く、死亡率は15%から25%と言われています。
大動脈解離の大半は、動脈硬化と高血圧が原因ですので、動脈硬化の進行を防ぐためには高血圧、糖尿病、脂質異常症の管理と、肥満の改善、禁煙など生活習慣の改善が大切です。
院長 : 能戸 徹哉