ドクターコラムDoctor Column

糖尿病の急性合併症について

 糖尿病の合併症に神経障害、網膜症、腎症などの慢性合併症があることは周知のことと思います。ここでは早急に診断治療をしないと命に関わる危険性がある急性合併症についてお話します。

1)糖尿病性ケトアシドーシス

 血糖値を下げる働きをするインスリンの不足により十分に血糖値が下がらないことで発症します。インスリンが不足すると糖分をエネルギーとして利用できず、体はエネルギー不足になってしまいます。そのため、代わりに脂肪が分解されエネルギーとして利用されます。脂肪が分解される際に、ケトン体という物質が増え(ケトーシス)、ケトン体が多くたまると血液は酸性に傾き(アシドーシス)、高度の脱水状態になります。
 症状としては急激な口渇、多飲、多尿、体重減少、全身倦怠感などの糖尿病に典型的な症状に加えて、嘔気、嘔吐、腹痛などの腹部症状が現れます。最悪、意識障害が進行して昏睡となり命に関わる状態になります。腹部症状が虫垂炎や腹膜炎と誤診されることもあります。
 インスリンの不足が原因なので、インスリンがほとんど分泌されない1型糖尿病を発症した時、1型糖尿病の方がインスリン注射を何らかの理由で中断した時、感染症などの糖尿病以外の病気が原因でいつもよりインスリンがたくさん必要になった時などに起こります。
 一方、20~30%はインスリンがある程度分泌されている2型糖尿病の方でも起こります。たとえば、若い肥満男性の2型糖尿病に多いと言われている清涼飲料水ケトーシス(ペットボトル症候群)という病態があります。本来であれば軽度の糖尿病の人が、糖尿病の病識がなく多量の糖分を含む清涼飲料水やスポーツドリンクを飲用し、高血糖による口渇をさらに清涼飲料水やスポーツドリンクで癒そうとして著しい高血糖とケトアシドーシスを招くという発生機序が考えられています。また、経口糖尿病薬のSGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ、カナグル、スーグラ、ルセフィ、デベルザなど)による副作用で正常血糖ケトアシドーシスが稀に認められ、内服されている方は注意が必要です。

2)高浸透圧高血糖症候群

 インスリンの不足は糖尿病性ケトアシドーシス程ではありませんが、著しい高血糖と極度の脱水になります。血清浸透圧が上昇することにより、しばしば意識障害を引き起こします。糖尿病性ケトアシドーシスが1型糖尿病に多いのに対して、この病態は2型糖尿病の高齢者に多いのが特徴です。インスリン分泌がある程度保たれているため、あまり脂肪は分解されずケトン体の上昇は軽度で、ケトアシドーシスにはならないか、なっても軽いのが特徴です。しかし、高齢者に多いだけに死亡率は高く、早急で的確な診断と治療が必要です。
 原因としては肺炎、尿路感染症、急性胃腸炎などの感染症、手術などのストレス、副腎皮質ステロイド薬や利尿薬の使用、高カロリー輸液などがあります。

3)乳酸アシドーシス

 体内に乳酸が蓄積することによってアシドーシスが起こります。アルコールの大量摂取が原因として多く、死亡率が極めて高い病態です。高血糖も乳酸アシドーシスになりやすい状態と考えられています。経口糖尿病薬のビグアナイド薬(メトグルコ、メトホルミンなど)の重大な副作用として乳酸アシドーシスがあり、腎機能障害のある方、高齢者、手術前後の方、アルコール多飲者では注意して使用する必要があります。また、ヨード造影剤の使用により一時的に腎機能が低下することがあるため、造影CT検査などではビグアナイド薬を一時的に中止します。

4)低血糖性昏睡

 低血糖とは血糖値が正常範囲以下(70mg/dL以下)にまで低下した状態をいいます。低血糖は脳の機能低下を引き起こし、著しい場合には低血糖性昏睡となります。血糖値が60~70mg/dLではあくび、不快感、空腹感、思考力の低下などの症状(前駆症状)が出現、50~60mg/dLでは発汗、ふるえ、悪心、不安、動悸などの自律神経の急激な高まりによる症状(警告症状)が出現、50mg/dL未満では脳へのブドウ糖供給不足によるめまい、頭痛、かすみ目、眠気、さらには錯乱、けいれん、昏睡などの中枢神経の症状が出現します。しかし、糖尿病の罹病期間が長かったり、低血糖を何度も経験したり、血糖コントロールが不良であったりすると、上記の前駆症状や警告症状がなく、中枢神経症状が最初に出現する場合があります。無自覚性低血糖と言われ、重症低血糖になることが多く注意が必要です。
 様々な原因がありますが、インスリン注射や経口糖尿病薬の過剰による薬剤性のものが頻度が高いです。他には、食事時間の遅れや食事量の不足、激しい運動、飲酒、下痢や嘔吐、肝臓や腎臓の機能低下などがあります。

副院長 : 能戸 久哉

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