胸の痛み、虚血性心疾患かも?
胸の痛みや圧迫感が出現した時、その原因が虚血性心疾患であれば、精密検査や専門的治療を要するため、虚血性心疾患の特徴を知っておくことは大事なことです。
心臓は心筋と呼ばれる筋肉でできており、全身に血液を送るポンプの働きをしています。
この心筋に酸素や栄養を与えているのが心臓の表面を走る冠動脈と呼ばれる動脈です。冠動脈が狭窄や閉塞すると冠動脈の血流が障害され、その結果、心筋への酸素や栄養の供給が減少し、胸部症状が出現します。これが虚血性心疾患です。
≪原因≫
ほとんどは冠動脈の動脈硬化で、動脈硬化の結果、狭窄や閉塞が起きます。
一方、冠攣縮性狭心症では、動脈硬化の無い冠動脈が攣縮(血管壁の筋肉が痙れんを起こす)を起こし、一時的に血管が狭窄や閉塞を起こします。
≪分類と症状≫
(1) 労作性狭心症
動脈硬化により冠動脈が狭くなると、労作時(階段の上り下り、重たいものの持ち上げる、坂道歩行など)に胸の痛みや圧迫感を生じ、安静にすると数分で消失します。
(2) 冠攣縮性狭心症
冠動脈が攣縮を起こすと、一時的に血管が狭窄や閉塞するため、胸の痛みが生じます。症状は夜間や早朝、朝方の安静時に多いのが特徴で、数分から10分程度持続します。飲酒や過呼吸で誘発されることがあります。
(3) 不安定狭心症
不安定狭心症とは発作の回数や強さが一定しておらず、以前は問題なかった軽い運動や安静時に発作が起きたり、持続時間が長くなったりする狭心症です。冠動脈の狭窄した部位にプラーク(血管内膜の動脈硬化による部分的な肥厚)が存在し、血管が閉塞する危険性が高く、心筋梗塞の前段階にある状態です。
(4) 心筋梗塞
冠動脈が完全に詰まった状態です。心筋への酸素供給が途絶え、心筋が徐々に壊死を起こします。壊死の範囲が広いと心臓の機能が低下して心不全を発症します。危険な不整脈を発症することもあります。
症状は急激な胸の痛みや胸のしめつけ感のほか、呼吸困難、吐き気、冷や汗などの症状が30分以上の長時間持続し、緊急の治療が必要な状態です。
≪検査≫
(1) 安静時心電図
胸の痛みがある時に行うと、虚血性心疾患の診断に有用です。
(2) 運動負荷心電図
運動をしながら心電図を測定する検査で、労作性狭心症の診断に有効です。
(3) 冠動脈CT
CT(コンピュータ断層撮影)を使用して冠動脈を画像として確認することができる検査で、簡便で比較的精度の高い検査です。
(4) 心筋シンチグラフィ検査
放射線医薬品の一種である「アイソトープ」を静脈から投与して心臓まで到達させ、心臓の動きや心筋血流の変化を測定する検査です。
(5) 心臓MRI(磁気共鳴画像撮影)検査
MRI検査は電磁気の力を利用して体の内部を撮影する検査です。
心臓MRI検査では心臓の機能、形態、冠動脈病変や心筋障害の部位、程度など、様々な情報を得ることができます。
(6) 冠動脈造影
冠動脈の状態を把握する上で最も正確な検査で、虚血性心疾患がある可能性が高い患者さんが受ける検査です。太さ1~2mmの細い管(カテーテル)を手首または太ももの付け根の動脈から入れて冠動脈の入り口まで進めます。カテーテルを通して造影剤を流しながら冠動脈の画像を撮影します。
≪治療≫
虚血性心疾患の治療には薬物療法、カテーテル治療、冠動脈バイパス術があります。薬物療法で不十分な場合に、カテーテル治療、冠動脈バイパス術を組み合わせて治療を行います。
(1) 薬物治療
血管を詰まらせる血栓を予防する抗血小板薬、心筋負荷を軽減し、症状を安定化させるβ遮断薬、冠動脈を拡張させる硝酸薬などが使用されます。
冠攣縮性狭心症には攣縮を予防するカルシウム拮抗薬を使用します。
(2) カテーテル治療
手首や肘、足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、狭窄あるいは閉塞している冠動脈を広げる治療です。狭窄部位をバルーン(風船)で拡張し、その部位にステントという筒状の金網を留置することによって、冠動脈の血流を維持することができます。
(3) 冠動脈バイパス術
冠動脈の狭窄部や閉塞部より先の部分に新しい血管(バイパス血管と呼ぶ)をつなげて、血液が病変部分を通らずにバイパス血管を経由して心筋へ流れていくようにする手術です。
≪予防≫
冠動脈疾患発症を抑えるためには動脈硬化を予防することが何より大事になります。
動脈硬化を引き起こす高血圧、糖尿病、脂質異常症があれば、生活習慣を改めたり、薬物治療が必要です。肥満や喫煙も動脈硬化と関係がありますのでダイエットや禁煙も重要です。
院長 : 能戸 徹哉